イギリスやフランスの郊外に存在するエコミュージアムは自然回帰運動の一環で昔の暮らし体験ができる建物や空間を自然景観ともどもにミュージアムとして保存したものである。そこには農業体験や地産地消のショップやレストランもある。村めぐりは散策しながら、あるいは馬車に乗って…という風な具合である。新川にもっともふさわしいミュージアムである。

   日本各地にはさまざまな理由で今は幻となった村里や部落がある。長崎県の軍艦島のように島そのものが廃墟と化したものもあれば、東北・松尾鉱山などの奥深い山間に置き忘れ去られた部落もある。近いところでは谷中村のように公害で立ち去らざるを得なかったところもある。それらは記憶から忘れ去られ、訪れるものもない。

   新川全体は河川敷の中にある。全体を歩いても1時間あまり、国から遊水地に指定され建物の建設はできない。土手からみると屋敷森が点在する隔絶された一区画は墨絵のように美しい。訪れた人たちは誰もがここを廃墟にしてはならないと想うことだろう。四季折々の美しさ、本当にたまにだが、キツネやカワセミにも出会う。竹林の森は群雀(ムラスズメ)のお宿である。かつて収穫をもたらした田畑は後継者がなく、少しずつ荒地に変わろうとしている。子どもと一緒に耕作しながら、森も再利用する。そして豊かな自然とともに300年の思いと歴史を伝言する。それを実現するのが今回のエコミュージアムである。できれば小さな昔の農家を再現し、大水と闘いながらここに住み続けた記録をバーチャルで見たり、機織りや蛇かごつくりを実際に伝授してもらうことができればどんなにいいだろう。まだネット上の架空空間であるが、近い将来、ヨーロッパのエコミュージアムの形に近づけばと思う。

   このホームページを訪れた方、ぜひ実際の新川におでかけください。忘れていた大切なものを見つけることができるかもしれませんよ

 主任楽迎員 平 秀子(楽迎員 岡里、浜田・依田他)




1994年
「新川河岸・新川集落について」という大嶋利雄さん(熊谷市久下在住96才)の小冊子を元に郷土文化会が編纂しまとめる。

1995年
新川にゴルフ場建設計画の反対署名運動、熊谷の環境を考える連絡協議会(熊環連)。関係各省に請願提出。

1999年6月〜
約1年かけてタウンタウン熊谷で連載。歴史や思い出や伝説など、生き証人からの取材で、地図の原案まとめる。朝日新聞・東京新聞などで取り上げられる。

2001年10月20日
2000年荒川・ワクワクマップ制作の延長で「まちづくり2001実行委員会幻の村まつり&ウォーキング」千名が新川に集まる。

2004年9月
久下完水橋跡碑建設委員会」による「思いやりの譜」出版。ここに「幻の村新川紀行」掲載。新川の歴史などをまとめる。

2005年3月
ピースふぁいぶるクラブの「新川菜園村&子ども遊びの森」がスタート。新川上分3企画を借り受ける。菜園村12坪23区画を耕作地に整備。森の間伐はじまる。夏のキャンプ実施。74名が参加。

2005年秋
「新川菜園村&子ども遊びの森」に水道、トイレ完備。

2006年8月
「新川菜園村&子ども遊びの森」夏のワンデーキャンプ・キャンドルナイト実施。100名参加。

2007年3月
新川エコミュージアムスタート





世話役:後藤真太郎(立正大学・地球環境科学部・教授)

   ここ旧新川村地区には、2004年、久下冠水橋跡の記念碑の建設と、記念誌の編纂に地元民、行政、NPO、一般市民、産業界から、1389人500万円の寄付が集まり、そのつながりが現在も残っている。新川にはピースファイブルクラブ、熊谷の環境を考える連絡会議、荒川ごみ拾いの中心メンバーなど熊谷を元気にしようとしている最強メンバーが菜園村の維持や子供の遊び場の維持管理を行っており、過去に市民の手だけで夏祭の再現を行い1000人集めた実績もある。 野鳥の森公園など他の公園との違いは、管理者が不在であるにも拘わらず、コモンズとしての場所の管理がおこなわれているパワーは、かつてどの地にもあったコミュニティーを維持しようとする原動力そのものであるが、時代と共に忘れ去られつつある。新川を選んだのは、文化面、環境での価値のみならず、度重なる洪水と戦いながら300年もの長きに渡って住み続けた人々の「Topophilia:場所愛」は、目に見えないが次世代に残すべき熊谷の貴重な宝であるからである。 新川ミュージアムはこれらの宝を温存しようとする意識の高まりをバネにしてスタートすることになった。文化的な価値については、記念誌の編纂の際にまとめられており、資料収集が出来る環境にある。近い将来は江戸時代の舟運の模様や昔の地図などを取り込み、バーチャルリアリティーを用いて再現する予定である。このエコミュージアムはトップダウンで構築するのではなく、規模こそ違え、ガウディのサクラダ・ファミリア教会のよう永遠に構築し続けることで村を守ろうとする人々の意識を持続させたいと考える。これから幾つもの修正や書き込み、方向性を模索しながら、21世紀の川と人々の暮らし、そして歴史の検証の足がかりにつなげたい。






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